世界自然遺産登録にむけて

西表の大自然再確認ツアーに
出かけてきました!



~自然との共生と地元の取り組み~
 

ピナイサーラの滝トレッキング

八重山諸島、東洋のガラパゴスともいわれる西表島。西表島は現在、沖縄島北部、そして奄美大島、徳之島とともに、2021年7月の世界自然遺産登録に向けての動きを進めています。
 そんな西表島の大自然を体感し、生物多様性を探る3日間のツアーにつれていってもらいました。カヌーでピナイサーラの滝、鍾乳洞、宇多良炭鉱跡、西表で最も古い集落である祖納、干立集落散策、漂着ゴミと浜辺のマイクロプラスチックの現状をみるビーチクリーン、西表野生生物保護センター見学などなどボリュームたっぷりの濃いツアーとなりました。
 今回は3日間を日ごとにレポート。イリオモテヤマネコに出会えたらいいなという願いを抱きながら、わくわくのツアーがスタートしました。

ガイド歴40年、西表の自然を知り尽くした森本さんに案内してもらう

上原港に到着すると、ネイチャーガイドの森本孝房さんが待ってくれていました。西表バナナハウスという屋号でツアーガイドのほか、環境活動など島の自然に関してマルチに活躍する森本さん。 兵庫県出身で、少年時代から自然が好きで21歳で西表に移住し、西表の自然観察ガイドの第一人者としてガイド歴は40年以上の大ベテラン。島のガイドさんたちからも一目置かれる森本さんに案内してもらえるということで、今回のツアーをとても楽しみにしていました。
1日目はピナイサーラの滝までトレッキングです。上原港から車で移動中、さっそくカンムリワシに遭遇。そして西表島ならではの「イリオモテヤマネコ飛び出し注意」の標識があるのも見えます。その標識のヤマネコの絵を描いたのはなんと森本さんなんです。イリオモテヤマネコもカンムリワシも国指定の特別天然記念物。西表島は、そんな固有種も数々生息する、まさに自然の宝庫です。
 イリオモテヤマネコの生息数は現在100頭ほどといわれており、毎年数件交通事故による死亡も報告されています。その事故を防ぐ対策として、道路の下に小動物が渡るためのアンダーパスと呼ばれるトンネルが通っているのだとか。そして、実際にヤマネコが利用していることもわかっているのだそう。
 ピナイサーラの滝には、カヌーで滝近くまで行き、そこから30分ほどの山歩きで滝壺へ。カヌー出発地点のマーレ川には簡易トイレが設置されていました。このトイレはバイオトイレといい、微生物の働きによって、水をつかわずに排泄物を処理できるというもの。西表では2021年に入って共用が開始されたばかりで、西表島カヌー組合のみなさんの当番制で、掃除など管理をしているのだそう。
朝9時前、風がなく水面に写る青空と雲がきれいで、川に浮かんでなんとも気持ちのいい時間。 マングローブ林に囲まれ、聞こえてくるのは鳥の声とオールで水をかく音だけ。カンムリワシの鳴き声もたくさんきこえていました。
しばらく漕いでいくと、遠くに細くのびるピナイサーラの滝が見えてきました。きょうはあの滝の上まで行きます。

落差55mのピナイサーラの滝へ

カヌーをおりていざ山に入ります。ほどなくして、存在感のある木に出会いました。サキシマスオウノキというこの木は発達した板根が特徴的。頑丈なこの板根は、以前はまな板や洗濯板として使われてきたのだそう。
 ロープを使うような急な登りがあったり、すべりやすそうな岩場だったり、決して簡単ではない道のり。その道中、生えている植物や花、岩盤や地層などについて説明してくれる森本さん。そのそれぞれの役割り、こんな用途で昔は食べられていた、毒があるなどなど書ききれない知識の多さにびっくりするばかり。
リュウキュウイノシシが餌を探して、土を掘り起こしている跡もたくさんありました。西表では、以前からイノシシは島の貴重なタンパク源として食されてきました。そして、森本さんは「スパイクを履いてくる人もいるようですが、木の根っこなどを傷つけないことも大事」と話します。
水の流れる音が次第に大きく、近くなってきて、落差55mの見事な滝が目の前に現れました。雨が多かったので水量も多く大迫力のピナイサーラの滝。ピナイはひげ、サーラは下がっているものという島の方言。
まさに、白いひげが長くのびているようです。あたりには巨石がごろごろしていて、原始的な雰囲気。夏場は滝壺で泳ぐ人も多いのだそう。滝を見上げながらしばらくのんびりしたあと、次は滝の上を目指します。
ところどころ急な上りもあり息も上がりながら、滝壺から約50分ほどで滝の上に到着しました。そこから見えるのは絶景。新緑の濃い緑と青い海、その先には鳩間島も見えます。 達成感を感じながら、2月だというのに生命力溢れる鮮やかな自然を前にして、何度もシャッターを切ってしまいました。
お昼ご飯をここでいただきます。この日のお弁当は、森本さんの奥さんの手作り弁当です。頑張って登ってきて、この景色を眺めながら食べるお弁当は最高でした。 ゆっくり休憩して、景色を堪能したら、きた道を戻って山を下ります。
カヌーまで戻ると、行きとは違うルートへ。別の支流を進み見に行ったのは、国内では西表島にのみ自生しているニッパヤシというヤシ。 地面から直接大きな葉っぱが伸びるのが特徴で、こちらも国の天然記念物。またもや天然記念物に遭遇です。マングローブにはさまれ、とても細くなった川を漕いだり、干潮で浅くなりカヌーを漕げないところでは引っぱって歩いたりして、朝出発したマーレ川まで戻りました。
夕暮れの時間にはコウモリが住み着いているという洞窟へ。じっと観察していると、無数のコウモリが洞窟から出入りしている様子が。 でも、とても素早くて、目の前をなにかがかすめていっていることはわかるという程度。 街中でよく見かけるヤエヤマオオコウモリとは違い、カグラコウモリとコギクコウモリという小型のコウモリだそう。森本さんが持つコウモリ探知機でその鳴き声も聞くことができました。
そのまま暗くなった山も少し探索。この日は冷え込んで寒く、ふだんは活動しているという夜行性の生き物たちもじっとしている模様。 フクロウが鳴き始め、空には星が出てきました。 まだまだ知らない島の自然があるなと実感しながら、明日も楽しみに1日目が終わりました。

鍾乳洞に炭鉱跡、自然とともにさまざまな歴史を学ぶ

古い集落を散策、暮らしと歴史を知る

2日目、西表でいちばん古い集落を探索したり、炭鉱跡や自然鍾乳洞へと盛りだくさんです。自然体験だけでなく、歴史も学ぶ日となりました。
さっそく、祖納(そない)集落の散策スタートです。祖納は西表で最も古い集落のひとつ。こちらは、県内に残る最古の木造住宅である新盛家住宅跡。築年数は150年ほどといわれているそう。テーブルサンゴの石垣に、茅葺き屋根、フクギの防風林と沖縄の昔ながらの家構え。そして、建材には島のオヒルギやマーニ(コミノウロツグ)がつかわれていて頑丈で台風でも壊れることはなかったのだそう。見学可能で、昔の家づくりの知恵を見られる貴重な建造物となっています。
近くの海が見える丘の上の茂みを分け入ってあったのは、旧日本軍の砲台の跡です。提示版もなにもなく、草むらのなかにひっそりとあるだけ。空襲と艦砲射撃を受けた八重山。戦跡はたくさん残っているのですが、いまはこのように目立たなくなっているところがほとんどです。
おとなりの干立集落も、祖納と同じ西表で最も古い集落のひとつ。この御嶽の周辺には水田があり、昔ながらの稲作が行われています。森本さんは「いまは田んぼが減ってしまっているけれど、稲作が盛んに行われていたことで、島の文化や祭りができた」と話します。夏の豊年祭や秋の節祭などでは、稲作にまつわる古謡がいくつも唄われているし、稲藁はそれらの祭祀には欠かせないものです。

昭和初期に栄えていた炭鉱村を訪れる

浦内川の中流にあった字多良炭鉱跡に出かけます。西表にはいくつもの炭鉱がありましたが、そのなかで最も大きな炭鉱村だったのが字多良炭鉱です。さっそく、川に沿って伸びる散策路を進んでいきます。平坦な道なので、緑のなかを気持ち良く散歩するような感じで30分ほどで到着です。
ガジュマルがからまる柱は、走っていたトロッコのレールの支柱跡。悠久の時を感じさせる佇まいです。ここは1935年から1943年頃まで稼働していた炭鉱で、芝居小屋などの娯楽施設もあり賑わいをみせていたそう。働いていたのは、本土から強制的につれてこられた人たちです。様々な歴史があったことを知る機会となりました。
お弁当休憩をはさみ、トゥドゥマリの浜へ。浦内集落の人たちがビーチクリーンを行っていました。この日は日曜日で、いくつもの浜で集落主催の清掃が行われていました。ゴミのほとんどは漂着ゴミです。トゥドゥマリの浜のきめ細かい砂は鳴き砂で、ひねって歩くときゅっきゅと音がなるんです。音を鳴らしながら、裸足で砂浜を歩くのがとても気持ち良かったです
森本さんの事務所へ。1歩なかに入ると、博物館のような空間!貝殻や標本がところ狭しと並べられています。ここだけでしばらくいられそうなほどの数々が。森本さんの、西表の自然と向き合ってきた時間が見てとれます。
うなり崎公園にちょっと寄り道。陸からだいぶ離れた海上で、SUPを楽しんでいる人の姿が見えました。西表に暮らす人たちは自然をこよなく愛す人たちばかりで、"自然と共に生きる"という言葉がとてもフィットしている島だといつも感じます。

続いては、天然の鍾乳洞へ。通りから少し森のなかを歩いたところに突如として現れる洞穴。入口付近からとてもひんやりとした空気に包まれています。
光が差し、なんとも幻想的な光景。このまま奥へ進み、反対側から出ることもできるそうですが、この時は時間がなくなってしまいタイムアウト。表情豊かな西表の自然の一面をまた見られました。
サンセットタイムは宿近く、祖納集落の前泊浜に行きました。目の前に見えるのはまるま盆山といわれ、八重山民謡にも唄われる小島です。大きなオレンジの太陽が水平線に沈んでいく様を見届けながら、また自然への感謝の気持ちが自然と出てくるのでした。
美しい夕焼けをあとにして、宿に戻り夜ごはん。島のおいしいものと島酒をいただきながら、西表旅も明日でもうおしまいかと2日目が終わりました。

西表の生態系と漂着ゴミの現状を知る

最終日はビーチクリーンをして漂着ゴミの現状を知り、西表野生生物保護センターへ行き島の生態系を学び、環境省の取り組みも教えてもらいます。
 さっそく、自然ガイドの森本さんが漂着ゴミがとても多いという場所につれていってくれました。

拾っても拾っても流れ着く漂着ゴミ

浜に下りてびっくり、すごい量のゴミです。ペットボトルをはじめ、あらゆるプラスチック製品のボトルやビン、浮きなどの漁具、発泡スチロール、大きいものは冷蔵庫までありました。特に北風の強い冬、島の北側に流れ着くゴミが多いのだそう。
そして、防潮林の役目をしているマングローブの根元が侵食され、海岸線の後退が進み、干潟に生息する生き物たちに影響を及ぼしています。そして、木々のあいだからは、奥のほうまで大量のゴミが入り込んでしまっています。
 海岸に流れ着くゴミの清掃は、八重山ではボランティアの方々が行っているのがほとんど。行政も入り、島をあげての取り組みをしていくべき事柄だと思います。
 それから、八重山では大陸から流れ着くゴミがほとんどですが、日本のゴミは、ハワイなど太平洋の広範囲へ漂着していることがわかっているのだそう。ゴミを正しく捨てることはもちろんですが、これからはもう、なるべくゴミを出さない暮らしを考えていくしかありませんよね。この現状を見てより一層その思いが強くなりました。
その次は、星砂の浜へ。
名前通り、手のひらを広げて砂をくっつけると、☆の形をしたたくさんの星砂があるのがわかります。ここでは、砂にまざったマイクロプラスチックを観察します。
ここにも大きな漂着ゴミもあるのですが、ちょっと奥を見てみると、流れ着いたゴミが劣化してどんどん細くなった、とても小さなマイクロプラスチックがたくさんありました。
森本さんが持ってきたザルで振るうとマイクロプラだけ残ります。みんなでしばらくこの作業をしましたが、取っても取っても、目線の先にたくさん見えます。これらを完全に取り除くことはできません。西表には、ウミガメが産卵に上陸する砂浜もたくさんあります。
 このマイクロプラが与える影響はとても大きいといいます。有害なものをたくさん吸着したゴミが浜に打ち上がり、紫外線を浴びて溶け、土に染み込んでいったり、粉々になったものを海中や浜の生き物が食べてしまい、体内で溶け出したり。ひいては、その魚を人が食べることだってあります。さまざまな面で生態系に影響を及ぼしています。

イリオモテヤマネコの生態をのぞく

続いては西表野生生物保護センターへ。イリオモテヤマネコやあらゆる野生生物の保護活動の拠点としてつくられた施設で、いきものギャラリーが整備され、見学に訪れることができます。島のあらゆる生物の標本などもあり、とても興味深いものがたくさんです。
環境省西表自然保護官事務所の竹中康進さんに、ヤマネコや現在の西表の野生生物について、いろいろ教えていただきました。このパネルは、ここ数年で起きたイリオモテヤマネコの交通事故があった場所をマークしたもの。この運転注意マップは島内のさまざまな場所で掲示、配布もしているのだそう。
 現在生息するイリオモテヤマネコは100頭前後といわれ、主に夜行性のため、あまり見かけることはありません。ヤマネコのような肉食獣が西表ほどのさほど大きくない島に生息していることは、世界的にみても珍しいとのこと。それは、西表の土地が豊かで、昆虫や鳥類などの餌資源が豊富だからなのだそう。
イリオモテヤマネコの剥製。いまにも動き出しそうです。ここでは、交通事故などで負傷をした個体を保護して治療、リハビリをし、野生に返すこともしています。そして、生息状況の調査研究、交通事故対策や外来生物対策を行っているのだそう。何時間でもいられそうな展示室を後にして、夕方、そろそろ石垣行きのフェリー乗船の時間となりました。

「島の自然は生き物たちの住みか、かけがえのないもの」

この3日間、山に滝に海に、西表のさまざまなフィールドを見て歩きながら、ずっと森本さんのお話しを聞いて、島の自然や文化、歴史、環境のこと、実にたくさんのことを知ることができました。
 人の暮らしのこんなにもすぐそばに生き物たちがいる。生き物たちの住みかである森に雨が降り、養分を含んで川から流れ、マングローブの下の干潟やサンゴ礁の海に流れる。そんな循環が見える島。
無駄なものはひとつもなく、島の多様な動植物がすべてがバランスをとりながら息づいている自然。それは、守るべきかけがえのないもの。世界遺産に登録されたからといってすぐになにか変わるわけではないけれど、保全の取り組みがより広がることを目指して。
 「人間も自然のなかの一員として循環型の社会をつくっていくことが大事」という森本さんの言葉を胸に、船に乗り西表をあとにしました。島の自然をこれから先もずっと守り、何代先の世代にもつないでいくために。

自然観察ガイド「森本 孝房」西表島の魅力にを語る

世界遺産登録を目指す!日本最後の秘境『西表島』で今何がおこっているのか?あなたに伝えたいこと……
自然観察ガイド森本孝房さんに聞いてみました!
森本 孝房(もりもと たかふさ)
(西表島バナナハウス代表)

兵庫県太子町出身。島の人には「たいし」と呼ばれています。 小さい頃から、野山を駆け巡って育ちました。

ヤマネコが発見され、西表がにわかに脚光を浴び始めた20歳の頃、島に渡ってきました。
当時は石垣からの船は1日1便。内地からの移住者もまだ少なく、 建設関係の仕事で生計を立てていました。
仕事の合間を見て農園を切り開き、西表の自然資源を活かしたガイドを始めました。
今では、ガイドに、農園に、みやげ物屋に・・・と様々の事を手がけています。

西表島バナナハウス・竹富町物産販売 山猫の里

〒907-1541 沖縄県八重山郡竹富町上原870-105
TEL 0980-85-6175
FAX 0980-85-6377
E-mail banana@iriomotenature.com
代表:森本 孝房
取材・文/笹本真純(石垣島在住)
映像制作/宝園博之 (730 C.W)・薄着のまつぅ(石垣島在住)